36 どの遺伝子が発現するかで分化が決まる


1MA 2/18(木)  1MB 2/15(月)  

授業の目標

①ゲノムの定義を説明できる。

②遺伝子発現を説明できる。 

 

重要な語句(P.はベストフィット生物基礎)

ゲノム(P.118)

…単相((n))の細胞にある(DNA)の全情報。生物のもつ(遺伝)情報全体を意味する。

分化(P.126)

…多細胞生物において、各細胞が特有の(遺伝子発現)を行うことによって、特有 の(構造)と(機能)をもつようになること。 

 

授業の内容

◎生物が持つ遺伝情報は解析が進んでいる。

ゲノムの解読

…生殖細胞(精子・卵)の核内のDNA+ミトコンドリアのDNA+葉緑体のDNA

※通常の生物(複相、2nと呼ばれる)はゲノムを2セット持っている。

※ゲノムの遺伝情報があれば、生物に必要なタンパク質はすべてつくれる。

例えば、ミツバチのオスは単相、nである。

 

◎ゲノムの全遺伝子のうち、ある細胞で発現する遺伝子はその一部である。

遺伝子発現によってタンパク質が合成される。

→そのタンパク質によって、細胞が特定の形態機能を持つようになる(=分化)。

※細胞はその場所や細胞質内の物質の濃度によって、ある程度分化の方向性が決まっている。

※一度分化した細胞は、原則再分化できない。

Back Side Story Vol.36

iPS細胞の「何がすごいか」について考える。

毎年、秋になると世界中の科学者や作家がそわそわし始める。ダイナマイトの発明家・ノーベルの遺言の基づき、物理学、化学、医学生理学、文学、平和、経済学の各分野で素晴らしい成果を上げた人々に贈られるノーベル賞の受賞者が発表されるからだ。2015年は感染症の研究で功績を挙げた、大村智氏に医学生理学賞が、ニュートリノに質量があることを確認した梶田隆章氏に物理学賞が贈られたことは記憶に新しいだろう。僕が小学生の頃にはノーベル賞を受賞した日本人は湯川秀樹氏(1949, 物理学)、朝永振一郎氏(1965, 物理学)、川端康成氏(1968, 文学)、江崎玲於奈氏(1973, 物理学)、佐藤栄作氏(1974, 平和)、福井謙一氏(1981, 化学)、利根川進氏(1987, 医学生理学)の7名だった。その後、1994年に大江健三郎氏が文学賞を受賞、2000年代に入ってから自然科学の分野で毎年とはいかないもののちょいちょい受賞してきている。

 

2012年に医学生理学賞を受賞した山中伸弥氏もその一人だ。彼の功績は知っての通り「iPS細胞の作製」だった。一昨年はSTAP細胞の登場でiPS細胞がかすむかと思われたが、結局その後のあれこれで、iPS 細胞が「万能細胞」として不動の地位を築きつつある。

 

では、iPS細胞の何がすごいのか?一言で言えば、「再分化できる細胞」ということになるだろう。筋肉だろうと、神経だろうと、一度分化してしまった細胞は、別の細胞になることはできない。これが従来の生物学の常識だった。だからこそ、人工的にからだの部品をつくるのは義手や義肢といった運動や支持に関わるものくらいしかつくることはできなかった。以前からES細胞という初期発生時の細胞をもとに様々な器官をつくる研究は行われたいた。しかし、ES細胞は受精卵(一部はそこからもう少し発生した細胞)からつくるため、現在、倫理的な側面で研究を認めないケースもある。

 

そんな時に山中氏によって作製されたのがiPS細胞だった。iPS細胞では元になる細胞は普通の細胞だ。そこに遺伝子を導入する(イメージ的にはもともとあるDNAの塩基配列に新たな塩基を挿入する)と、再分化することができるようになる。この仕組みによって、現在では臨床試験も行われており、近い将来、iPS細胞を元につくった器官を移植したりすることができるようになるかもしれない。もっとも、遺伝子を導入する過程で、別の遺伝子まで入ったりするリスクもあり、まだまだ課題は残っている。しかし、少なくともiPS細胞については倫理的な面での制約はないといえる。