1MA 11/9(月)予定 1MB 11/12(木)予定
授業の目標
①心拍数の増加と減少を自律神経の働きを踏まえて説明できる。
重要な語句(P.はベストフィット生物基礎)
自律神経(P.121)
…(無意識)のうちに内臓諸器官の働きを調節する末梢神経系の一つ。
視床下部(P.120)
…(間脳)の一部分で、(自律神経)系と(内分泌)系の中枢として働く場所。
授業の内容
◎動物には情報伝達のための神経細胞がつながった神経系がある。
…ヒトの神経系は
①中枢神経系…脳(大脳・間脳・中脳・小脳・延髄)+脊髄で構成
→情報を判断・処理
②末梢神経系…感覚神経+運動神経+自律神経系で構成
→中枢神経系とからだ各部を連絡
◎間脳の視床下部は、自律神経系の中枢である。
…大脳(=意識下)とは別に調節を行う
…時々、大脳での強い感情によって影響を受ける場合もある。
◎自律神経系は拮抗的な作用を持つ2種類の神経から構成される。
①交感神経(「闘争 fight」と「逃走 flight」の神経)
…緊張時に働き、エネルギーを消費する方向にからだを調節する。
(例)瞳孔 →拡大(周囲の状況を確認しやすくする)
心臓の拍動 →促進(さまざまな物質の運搬量を増やす)
胃腸の運動 →抑制(エネルギーを他の部分に回す)
顔面の血管 →収縮(体温を維持するため、血管を体表面から遠ざける)
呼吸 →促進(酸素摂取量を増やして、エネルギーを生産する)
②副交感神経
…リラックス時に働き、エネルギーを蓄積する方向にからだを調節する。
(例)瞳孔 →収縮(休める)
心臓の拍動 →抑制(心臓を休める)
胃腸の運動 →促進(消化・吸収の量を増加)
顔面の血管 →拡張(余分な熱を逃す)
呼吸 →抑制(エネルギー生産量を抑える)
Back Side Story Vol.23
サリンという物質がこの国で有名になった日
僕がまだ中学1年生だった1994年6月27日深夜、松本市の住宅街で特殊な神経ガスが散布された。神経ガスの名前はサリン。これにより、7名が亡くなり、660名が負傷した。警察の初動捜査のミスや、マスコミの偏見を含んだ報道によって、無実の第一報告者が容疑者扱いされるなど、多くの問題を含んだ事件となった。2014年6月26日放送のNHK「クローズアップ現代 生かされなかった教訓 ~松本サリン・20年後の真実~」によれば、事件の2日後には県の研究機関が毒ガスの成分がサリンであることを突き止めていたという。しかし、情報の共有はなかなか進まなかったようだ。
また、当時「農薬からサリンを作った」「素人でもつくれる」という報道があり、僕達は化学の先生に「先生はつくれますか?」と聞いたこともあった。先生の答は、「それ相応の設備があればね」というものだった。今にしてみれば、彼は本当に化学の先生だったんだなと思う(ちょっと失礼か?)。先生の言葉通り、現実には高度な知識と相応の設備がなければつくることはできない。会社員が自宅のガレージでちょこちょこっとつくる、などということはあり得ないのだ。さらに詳しく知りたい人は、NHKのサイトに動画もあるので、ぜひ見てほしい。(http://www.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail02_3521_all.html)
さて、サリンとはいったいどのような物質なのだろうか?正式名称はイソプロピルメタンフルオロホスホネートというこの物質は、第二次世界大戦前夜の1938年にナチスによって開発された神経性の毒ガスである。「神経性」という言葉からも分かるように、神経の働きに作用するのがこのガスの特徴だ。自律神経系のうち、副交感神経の末端からはアセチルコリンという神経伝達物質が分泌される。このアセチルコリンは、交感神経の働きで活発になっている活動を静めるような働きがある。例えば、心臓の拍動は抑制されるし、血管は収縮する。これによって、私達の身体は必要のない時はエネルギーを蓄えるようにしているのだ。
アセチルコリンなどの神経伝達物質は、一定の時間が経つとそれらを回収する仕組みが備わっている。心臓の拍動がある程度落ち着けば、アセチルコリンは回収され、心臓の拍動はそのペースを保ち続けるのだ。ところが、サリンにはその仕組みを阻害する働きがある。サリンを吸収してしまうと、アセチルコリンが回収されなくなってしまう。すると、心臓の拍動はどんどん遅くなるし、呼吸もできなくなってくる。その結果、最終的に死に至ってしまうのだ。
何とも恐ろしい化学物質を人類はつくり出してしまった。人を殺すことにしか使えない化学物質に何の意味があるのか?残念だが、このような化学物質はたくさんあるし、今も開発は進んでいるかもしれない。サリン事件は僕達に科学の意味、人類の将来を問いかける。